ていたようでしたが、やがて取り出したひと品は一筋の麻なわでしたから、そんなものを何にするだろうといぶかしんでいると、じつにこれが名技ともなんともいいようのない早わざなので、さながら一本の棒かなんぞのように、するすると手先から繰り出されたかと見えるや、ひらり輪先をそこの庭の石燈籠《いしどうろう》の首にひっかけてみせました。それも、五尺や八尺の近くならば、なにも改まって驚くにはあたらないことでしたが、目分量でもじゅうぶんに六、七間の距離があったものでしたから、右門の口辺にはじめて会心そうな微笑がのぼりました。
「ほほう、投げなわをよくいたすとみえるな。余のかたのご推挙ならばもちっと吟味せねばならぬが、ほかならぬ伊豆守様からのおくだされものじゃから、いかにも配下といたしてしんぜよう。では、あすにでもご奉行職に願いあげて、その旨上申してつかわすゆえ、当分のうち牛は牛づれに、伝六と同居いたせ」
伊豆守様折り紙つきという一条がものをいって、思いのほかたやすく採用と決定いたしましたものでしたから、喜んだのは本人の善光寺辰と、牛づれのできた伝六でしたが、しかし、物事はそうそうおあつらえ向きばかりには
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