らば鳴り物がはいらないと太夫《たゆう》たちに興が移らないのか、ジャカジャカチンチンと下座のおはやしが始まるといっしょに、嫣然《えんぜん》として右門主従三名のほうへ媚《こ》びの笑いを投げかけながら、妖々《ようよう》とそこに競い咲くごとく姿を見せた者は、これぞ問題の梅丸竹丸両花形です。梅の花を染めぬいた大振りそでを着ているところから推さば、それが梅丸というのに相違なく、年のころはまず二十一、二歳、一方はそれより一つか二つ年下で、同じように竹を染めぬいた大振りそでの衣装から判断すると、むろんのことにそれが竹丸というのに相違なく、しかも両々さすがに売り物の看板娘というだけがものはあって、なかなかにあなどりがたいあでやかさでしたから、
「へへえい。な、辰。こりゃどうもわりかたとおつな玉だぜ」
 たかが奥山の芸人ふぜいと、今のさっきけいべつしきったそのあいきょう者が、まだ舌の根のかわかぬうちに自分から先にたって、ぽかんと見とれだしたのも笑止千万ですが、そのまに下座のおはやし連がひとわき高くジャカジャカと景気をつけて、いかにも奥山の芸人らしく歌いだしました。
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※[#歌記号、1
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