おる者じゃ」
「へえい、番頭代わりかたがた楽屋番をいたしおるおやじめでござります」
「では、このできごとの前後のもようなども存じおるであろうが、これなる親方があやめられたときは、どんな様子じゃった」
「倒れて消えましたものか、わざと吹き消しましたものか、へやのあかりが消えますといっしょに、どたばたとけたたましい物音がござりまして、まもなくキャッという悲鳴がござりましたゆえ、みんなしてこわごわやって参り、ここの入り口からあかりをさし入れまして、そっとのぞきましたら、親方さまがかようなお姿となられまして、そばにその手裏剣打ちの姉めがそでを食いちぎられて、がたがたと震えていたのでござります」
「そのおり、だれぞこのへやの中まではいりおったか」
「いいえ、だれもはいった者はござりませぬ。なにしろ、こわい一方で、みんなここのところから、震えふるえのぞいたばかりでござります」
「その後もずっと、このへやへ座方の者ではいった者はなかったか」
「へえい。なにしろ、娘子どもの多い一座でございますゆえ、みんなもう血のけを失って、いまだにだれもそばへ寄りつく者がないくらい、こわがってでござりましたゆえ、せめ
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