てあかりなとつけなくてはなおこわかろうと、てまえがそのあんどんをともしに、はいったばかりでござります。それから、いまひとり、先ほど下手人めをお引き立てに参りました八丁堀のむっつり右門様とやらおっしゃるおかたが、おひとかたはいっただけでござります」
「ほほう、むっつり右門がたったひとりで参ったとな。あやつのそばには、おしゃべり屋のあいきょう者が今までしょっちゅうくっついていたはずじゃが、それを置き忘れてくるとは、むっつり右門も近ごろちっともうろくしたようじゃな。よしよし、もうたくさんじゃ。あまりそこからのぞかないほうがよろしいぞ」
 微笑しいしい皮肉なことをいって、おやじを向こうへ去らしていたようでしたが、かたわらの手裏剣少年のほうへ振りかえると、さらに改まった質問が飛んでいきました。
「そなたの姉は、かるわざ一座で何をいたしおった」
「ついこのほどで始めたばかりでござりまするが、竹棒渡りをしてでござりました」
「なにッ、竹棒渡りとな! たしか、あのかるわざをやる者は、竹がすべらぬように、たびの裏へ石灰かみがき砂を塗っておくはずじゃが、この一座では何をつかいおるか」
「石灰でござりました
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