たれました。
「バカ者めがッ。かたる者に人をかいて、このむっつり右門に化けるとはなにごとだッ――さ、伝六ッ。辰ッ。ちっとまた忙しくなったようだから、久方ぶりに右門流の虫干しでも始めようぜ」
 いいつつ、珍しや今宵《こよい》はすっぽりと紫覆面に姿をかくして、黒羽二重の着流しにりゅうとしながら立ち上がりましたものでしたから、ことごとくおどり上がったのはあいきょう者です。
「ちッ、ありがてえッ。こうおいでなさりゃ、伝六様もおしゃべりのあごにたっぷりゴマの油がひけるというもんだ。辰公もよく覚えておきなよ。おいらがだんなの口に、今のような啖呵が出たなとなりゃ、すぐにあとは駕籠《かご》だッとおいでなさるからね。では、呼びますぜ」
 しかし、駕籠は駕籠でしたが、ちょっと今宵は趣が違っていますので――、
「一丁でいいぜ」
「えッ?」
「おれの分が一丁でいいんだよ」
「急に勘定高いことをおっしゃりだしましたが、じゃ、あっしらふたりはどうするんですかい」
「きまってらな。入費のかからねえ二本の足で走っておいでよ」
「ちぇッ。どうせご番所のお手当金をいただくんだもの、足代ぐらいはしみったれなくたっていいじゃ
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