ござんせんか」
「だから、おめえなんざいつまでたっても出世しねえんだ。ご番所のご公金だからこそ、足代だとてむだにしちゃならねえじゃねえか。辰あきのうきょうの新参者だ。しかるにもかかわらず、新参者が初手から駕籠なんざあぜいたくすぎらあ。年季が積むまで修業しなきゃならねえから、かわいい弟分の兄弟つきあいだと思って、いっしょに苦労を分けてやんなよ」
 ここらが右門の右門たるゆえんですが、とんだところへ兄弟分の修業つきあいを仰せつかったものでしたから、伝六のしょげ返ったこと、しょげ返ったこと――
「ちぇッ。ありがたすぎて涙が流れらあ。みろい、辰ッ。いっしょに苦労を分けてやるからにゃ、あしたから、おめえが一日交替でおまんまをたけよ」
 いいつつも、四尺八寸のお公卿《くげ》さまといっしょに、それなる手裏剣打ちの芸人を小屋への案内人として、ふうふう息を切らしながら駕籠のそばを走ってまいりましたものでしたから、右門はただちに浅草奥山の見せ物小屋通りに乗りつけました。

     3

 時刻はもう四ツそこそこの刻限でしたから、むろんのことに見せ物小屋ははねたあとで、どこもかしこもひっそりと死んだように
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