てみただけなんですよ」
 変なところへ吹かしばえのしない兄貴風を吹かしながら、それでも先にたって井戸ばたのほうへやっていったようでしたが、まもなくふたりして、よちよちと、手おけに三杯掘り井戸の冷たいところを運んでまいりましたので、何をするかと思われたのに、いつもながらそういうところが、じつに右門流でした。
「さ、望みどおり殺してやるから、ちょっとこっちに首を出しなよ」
 いいつつえり髪を捕えて、そこの縁側へひきずっていくやいなや、やにわにじゃあじゃあとくみたての冷やっこいところを、少年の首から頭へ浴びせかけましたものでしたから、まことに春先ののぼせ引き下げにはこれこそ天下一品の適薬です。一杯一杯と浴びるごとに、しだいしだいと心が静まったとみえて、ややしばし少年がきょとんとしていましたが、いよいよいでていよいよ奇怪千万でした。にわかにがらりとうって変わって、神妙に右門の前へ両手をつくと、とつぜん変なことをいいだしました。
「あんまり腹がたちましたゆえ、ついカッとなりまして、前後も知らずにだいそれたまねをいたしましたが、もうお手向かいはいたしませぬゆえ、どうぞだんなさまも、わたしの姉をお返
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