あっしでちょうど七代、こんなお平《ひら》の長芋みたいな育ちの悪い小男ばかりが続くんでございますよ。今のお目にかけました隠し芸にしてからが、やっぱり親どもの稼業のせいなんでござんしょうが、暗いところばかりで仕事をしたため、ひとりでに目が強くなったものか、あっしまでが今お目にかけましたように親の血を引いて、子どもの時分から夜でもよく物が見えるんでございますよ。伊豆守様が希代なわざと折り紙つけてくださいましたのも、一つはつまりそれなんでございますがね」
「なるほどさようか、いかにも珍しい話じゃが、名はなんと申すか」
「善光寺|辰《たつ》と申しますんで――」
「なに、善光寺辰? いぶかしい名まえじゃが、親がつけたか」
「いいえ、親のつけた名まえは辰九郎というんですが、あんまりあっしが小粒なんで、善光寺さまのご尊体が一寸八分しきゃないとかいうあれをもじって、みんながいつのまにかそんなあだ名をつけたんでございますよ」
「いかさまな、物は考えようじゃな。では、あとの一つの希代なわざじゃが、それはどんな隠し芸じゃ」
 ――と、みずから善光寺辰と名のったそれなる小男が、なにやらごそごそと腰のまわりを探っていたようでしたが、やがて取り出したひと品は一筋の麻なわでしたから、そんなものを何にするだろうといぶかしんでいると、じつにこれが名技ともなんともいいようのない早わざなので、さながら一本の棒かなんぞのように、するすると手先から繰り出されたかと見えるや、ひらり輪先をそこの庭の石燈籠《いしどうろう》の首にひっかけてみせました。それも、五尺や八尺の近くならば、なにも改まって驚くにはあたらないことでしたが、目分量でもじゅうぶんに六、七間の距離があったものでしたから、右門の口辺にはじめて会心そうな微笑がのぼりました。
「ほほう、投げなわをよくいたすとみえるな。余のかたのご推挙ならばもちっと吟味せねばならぬが、ほかならぬ伊豆守様からのおくだされものじゃから、いかにも配下といたしてしんぜよう。では、あすにでもご奉行職に願いあげて、その旨上申してつかわすゆえ、当分のうち牛は牛づれに、伝六と同居いたせ」
 伊豆守様折り紙つきという一条がものをいって、思いのほかたやすく採用と決定いたしましたものでしたから、喜んだのは本人の善光寺辰と、牛づれのできた伝六でしたが、しかし、物事はそうそうおあつらえ向きばかりには
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