く右門が不審に思っていると、伝六がひとりではしゃぎながら、ひとりで心得顔に、事の子細を説明いたしました。
「人間てがらを重ねておくと、こういう堀り出し者が、ひとりでに向こうから集まってくるんだから、ありがたいこっちゃござんせんか。実は今、こちらに晩のおしたくにやって来ようとすると、ひょっくりこの珍客があまくだってめえりましてね、きょうから右門のだんなの手下になることに話が決まったから、だんなに引き合わせろとこう申しましたんで、さっそくお目見えにつれてまいりましたが、すばらしい珍品じゃござんせんか。どうです! 御意に召しませんか」
「不意に妙なことをいうが、いったいだれが手下にしてやると申した」
 御意に召そうにも召さないにも、まるでいうことが右門には初耳でしたから、あっけにとられて聞きとがめると、ところが、いたって伝六がおちついていいました。
「だから、あまくだったといってるんじゃござんせんか。ここに松平のお殿さまからのりっぱなご添書がごぜえますから、ご覧なせえましよ」
 うやうやしく伝六が奉書包みをさし出しましたものでしたから、さっそく右門も披見《ひけん》すると、いかさまりっぱなお添書といったことばのとおり、それなる一書は次のごとく書かれた松平伊豆守のお直筆でした。
[#ここから1字下げ]
「こは余が領国武州|忍《おし》に育ちし者に候《そうろう》も、希代なるわざ二つあり、下人に捨ておくは惜しきものと存じ、そのほう配下に差し送り候条、よしなにお差配しかるべく、右推挙候者なり」
[#ここで字下げ終わり]
 これが余人の推薦ならば、容易に食指を動かす右門ではありませんでしたが、天下第一の名宰相、知恵の権化の松平伊豆守が、これならばといわぬばかりに、太鼓のような判を押して、わざわざ送りつけてくださいましたものでしたから、右門もようやく事の顛末《てんまつ》を知りまして、とりあえず座敷に請じあげると、おもむろにまずその人となりを尋ねました。
「では、ともかく人となりを承ろう。当年何歳じゃ」
「二十三でございます」
「ひどく小さいようじゃが、まさか日陰で育ったわけではあるまいな」
「いいえ、それが実あ日陰ばかりで育ったんだから、うそはいえないものでございますが、親代々家の稼業《かぎょう》が金山の金掘りでござんしたのでな、しょっちゅう日の目の当たらない地の中へもぐっていたせいか、
前へ 次へ
全23ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング