ごいところと、捕物さばきのあざやかなところをゆっくり見せてやるから、急がずについておいでよ」
 軽く言い捨てながら、ふたたび舟に帰っていったと見えましたが、まもなく船頭に命じてこがせていったところは、なぞの白壁屋敷とはちょうど真向かいになる反対側の岸でした。しかも、舟をそこの葦叢《あしむら》にとまらせると、あかりをすっかり消させてしまって、船頭たちにもそうすることを命じながら、ぴたり船底に平みついて、じっといま来た向こう岸に耳を傾けだしました。

     5

 かくして、時を消すことおよそ小半時《こはんとき》――。もちろん、もうあたりは深夜のような静けさなので、ところへ、やがてのことにいんいんと、風もない初春の夜の川瀬に流れ伝わってきたものは、金竜山《きんりゅうざん》浅草寺《せんそうじ》の四ツの鐘です。と同時に、ぱちゃりと右門の耳を打ったものは、たしかに向こう岸から、だれか大川に飛び入ったらしい水音でした。
「伝六ッ。そら、来るぞ。来るぞ。よほどの怪力らしいから、命を五ツ六ツ用意しておけよ」
「ちくしょうッ、だんなの草香流がありゃ万人力だ。さ、来い!」
 互いにしめし合わせながら、
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