のあるお屋敷がいくらでもあるにちげえねえんだからね」
「いろいろとよく根掘り葉掘り聞くやつだな。もし、河岸の奥に野郎の住み家があったら、水びたしになったうろんなかっこうで夜ふけに通るんだもの、火の番だっても怪しく思って騒ぎたてるに決まっているじゃねえか。しかるにもかかわらず、いっこう、そんなやつの徘徊《はいかい》した訴えが、この奥のどこからもご番所へ届いていねえところをみると、河岸っぷちに住み家があるため、だれにも見とがめられねえんだってことが見当つくじゃねえか。だいいち、何よりの証拠は、この白壁へべたべたとついている足跡をよく見ろよ」
「えッ、ど、どこですか」
「ほら、こことここと、足のかっこうをしたどろの跡が、ちゃんとついているじゃねえか。しかも、松の木の枝の出ている真下に足跡がついているんだから、ここを足場にしやがって、上り下りしたにちげえねえよ」
「なるほどね。おっそろしい眼力だな。じゃ、すぐに踏ん込みましょうよ」
「まあ、そうせくなよ。なにしろ、敬公という人質を取られているうえに、そもそもこのでけえ屋敷なるものが、なにものともわからねえんだからな。細工は粒々、右門様の眼力のす
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