だってもずいぶん舟の中から見たようでしたぜ」
「それがおれの眼力のちっとばかり自慢していいところさ。まあ、よく考えてみねえな。松やにのにおいが着物にしみついていたといや、野郎が松の木を上り下りした証拠だよ。としたら、どこの家にだって、門もあろうし出入り口もあるんだから、なぜまたわざわざご苦労さまに松の木なんぞを上り下りしなきゃならねえだろうかってことが、不思議に考えられそうなものじゃねえか。そこが不思議に考えられてくりゃ、野郎め、大ぴらに大手をふって門の出入りができねえうしろ暗い身分の者か、さもなくばお屋敷奉公でもしている下男か下働きか、いずれにしても、門を自由に大手をふっては出入りのできねえ野郎だってことが、だれにだっても考えられるんだからな。そこまで眼がついてくりゃ、よしんば松の木はいくらあったにしても、ちっちぇい家には目もくれねえで、大きな屋敷をめどに捜してきたってことがわかりそうなものじゃねえか」
「いかにもね。だが、それにしても、河岸《かし》っぷちだけに見当をつけて上ってきたなあ、少しだんなの勘違いじゃござんせんかい。本所深川を捜していたら、もっと奥にだって、へいぎわに松の木
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