んとその着物のうちに松やにのにおいがしみ込んでいたんですよ」
「なにッ、着物がぬれていて、松やにのにおいがしみ込んでいたとな※[#疑問符感嘆符、1−8−77] まさか、ねぼけていて勘違いしたのではあるまいな」
と――、話を奪って、紙屋の主人がとつぜんことばをさしはさみました。
「そうそう、あっしも今つくだに屋さんにいわれて思い出しましたが、べっとり胸のあたりまでぬれていましてな、やっぱりぷんと松やにのにおいがたしかにいたししましたよ」
聞くや同時でありました。名人の眼光がらんらん烱々《けいけい》として輝いたとみえましたが、あの秀麗きわまりない面に、莞爾《かんじ》とした微笑がのると、ずばりいったもので――
「よし、もうあいわかった。おそくも明朝までには必ずかたきをとってつかわすにより、安心して傷養生をいたせよ」
いうと、それっきり尋問調査を切りあげながら、すでにもうすべての確信がついたもののごとく、静かにあごをなでていましたが、ところへ息せききりながら駕籠を走りつけてきたものは伝六でした。その伝六がまたすばらしい大車輪で、黒門町のほうばかりではなく、前々夜襲われた小日向《こひなた》
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