に命を失ったものがふたりもあるんだから、熱いくらいはがまんしろ」
 きびしくしかりつけておくと、いかさま加賀百万石をうちしのぐ珍道中ぶりで、人足どもにそれをかつがせながら、草香流におまじないをされたままで玄関先にのけぞっている悪旗本どもをしり目にかけつつ、さっさと伝馬町へ急がせました。
 いうまでもなく、伝馬町にはあばたの敬四郎が例のあの悪い癖を出して、見当違いなホシとも知らずに、きっと今も無実の美男|相撲《ずもう》、江戸錦四郎太夫を痛み吟味にかけているだろうと思ったからでありますが、案の定乗りつけてみると、ありとありたけの責め道具をそこに並べて、いたけだかになりながら必死と痛めつづけていましたものでしたから、右門はやにわに敬四郎の目前へどかりふろおけをうちすえさせると、微笑を含みながら、やや皮肉にいいました。
「やぶにらみもいいかげんにしなせえよ。さっきの死骸の駕籠のお礼に、人間の湯づけを一匹おみやげに持ってまいりましたから、じっくりとこの中の野郎をご覧なせえな」
 いうや、ぷつりとなわを切って、ふたを取りはずしてやったものでしたから、ゆでだこのようなまっかな顔でへとへとになりながら
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