《しげえ》にぶっつかったとは、たしかにはっきりいいましたっけね」
「そうだろ、にもかかわらず、あばたの大将ときちゃ、てめえで本人の張り番をしていたことをすっかり忘れちまっているんだからね。そんなでくの棒のくせに、折り紙つきのこの右門と張り合おうというのは大違いだよ」
「ちげえねえ、ちげえねえ、そのせりふを聞いて、すっかり溜飲《りゅういん》が下がりやした。じゃ、なんですね、だれかほかに下手人があって、そやつが江戸錦に罪をきせるため印籠の細工をしたというんですね」
「あたりめえさ。だから、お城へひとっ走り行ってこいといってるんだよ」
「まあま、待ってください。行くはいいが、お城にその肝心の下手人がいるとでもいうんですかい」
「聞くまでもねえこったよ。おれの目玉が安物でねえ証拠をいま見せてやるから驚くな。下手人は女だぜ」
 ずばりと断定するように言い切ると、なにやらごそごそたもとの中を探っていたようでしたが、まもなく右門の取り出したものは、さっきすばやく駕籠の中から拾い取ってしまっておいたあのふところ紙でありました。妙な品物でしたので、伝六は目をぱちくりさせていましたが、右門は莞爾《かんじ》
前へ 次へ
全55ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング