とばかりうち笑《え》むと、それを伝六の眼の前にさしつけながらいいました。
「どうだ、早わざに驚いたろ。まず第一は、この紙ににじんでいる赤い色が二通りになっているから、目のくり玉をあけてよく調べてみなよ」
「いかにもね。こっちのべたべたにじんでいるどす黒いやつア、たしかに血の色にちげえねえが、そっちのちっちぇえ赤い色は、どうやら口紅のあとじゃござんせんかい」
「そうだよ、ふところ紙に口紅のあとがついているとするなら、この紙の持ち主が女であるこたあ確かだろ。そこで、第二はこの紙そのものだがね、おまえのような無粋なやつあ、このなまめかしいふところ紙がなんてえ品物かも知るめえなあ」
「ちぇッ、つまらんところでたなおろしなんぞしなくたってようがすよ。無粋だろうと、ぶこつだろうと、大きなお世話じゃござんせんか。なんてえ紙ですかい」
「これが有名な筑紫漉《つくしずき》だよ」
「へへえ、なるほどね。筑紫漉といやあ思い出しましたが、大奥のお腰元が使うとかいう紙ゃあこれですね」
「そうさ。だから、これでこのふところ紙の持ち主ぁ女で、しかも大奥のお腰元だっていうことがわかったろ。しかるにだ、まだ一つおれでな
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