。退職願いを出すなあ敬四郎のほうだよ」
「じゃ、なんですかい、だんなはまだ勝つつもりでいらっしゃるんですかい」
「おかしなことをいうね。するてえと、なにかい、おまえこそおれが負けるとでも思っているのかい」
「だって、そう思うよりほかにしかたがねえじゃござんせんか。秀の浦の死骸《しげえ》のそばに江戸錦の持ち物の印籠《いんろう》がおっこちていたっていやあ、だれだってもうしっぽを巻くよりほかにしかたがねえんだからねえ」
「あきれたもんだな。じゃ、おまえにきくが、おまえはいったい江戸錦がふたりいると思っているのかい」
「ちぇッ、バカにしなさんな! そんなこと、ひとりにきまってるじゃござんせんか」
「そうだろ。だとしたら、おまえももうちっとりこうになってみねえな。江戸錦が殺した殺したというが、その江戸錦ゃああの相撲が終わるからずっと今まで、敬四郎の野郎がそばにくっついて番をしているはずじゃねえのかい」
「な、なるほどね。大きにそれにちげえねえや。あばたの野郎自身も、たしかにそういいましたっけね。いくら江戸錦を締めあげても遺恨の子細を白状しねえので、四ツ谷見付までしょっぴいていったら、秀の浦の死骸
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