をたもとに拾い入れると、もうこれさえ見つかればおれのものだといわぬばかりに、莞爾《かんじ》とうち笑《え》みながらいいました。
「いや、どうもけっこうなおみやげをわざわざお届けくださりまして、ありがとうござんした。だが、いかにてまえがひとり者でも、死人と同居はあまりぞっといたしませんからな。せっかくながら、お持ち帰りを願いますかな。では、失礼つかまつりますよ」
 いたって皮肉に言い去ると、あごをなでなでへやの内へ取って返したようでしたが、そこへ伝六が目をぱちくりさせながらやって来たのを見ると、猪突《ちょとつ》に命令を発しました。
「さ、忙しいぞ。きさまこれから大急行でお城まで行ってこい!」
「えッ、お城なんぞに今ごろ何か用があるんですかい。さすがのだんなも、今度という今度は、あのあばたづらにしてやられたんで、退職願いでもしようとおっしゃるんですかい」
 不意に御殿へ行ってこいといったものでしたから、いつもながらの伝六がすっかりそれを辞職願いと勘違いしたのも無理のないことですが、しかし右門はポンと大きく胸をたたくと、しかるようにいいました。
「江戸八百八町がごひいきのむっつり右門じゃねえか
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