ふたりを突き合わして白状さしてやろうと、こやつめをしょっぴきながら秀の浦のあとを追っかけていったら、かわいそうに、四ツ谷見付の土手先でこの駕籠へはいったまま、あけに染まってゴネっているんだ。しかも、その駕籠の中にこの印籠が落っこちていたんだから、だれだって江戸錦が下手人と思うに不思議はねえじゃねえか」
事実としたら、いかさまこれは、敬四郎が江戸錦を下手人と思うに不思議はないことでした。左内坂から行き先不明になった秀の浦が死骸となって駕籠にのったまま四ツ谷見付の土手先にころがっていて、その駕籠の中の死骸のそばに、江戸錦所有の印籠が落ちていたというんですから、まことに敬四郎が大得意になって、こんな狂言じみた死骸持ち運びの一幕を演じたのは当然のことです。が、しかし、われらのむっつり右門は常に別あつらえの頭脳の持ち主です。早くもなにごとか思い当たったとみえて、うそうそと笑いながら龕燈《がんどう》を駕籠の中へ差し入れると、しきりに秀の浦の傷口を見調べていたそうでしたが、――と刃先の血のりをぬぐって、そのまま不用意に捨ておいていったらしいふところ紙がそこにころがっていたのを見つけて、すばやくそれ
前へ
次へ
全55ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング