かり眼がついたというのでござりますな」
「あたりめえだ。眼がついたからこそ、こうしてきさまにも拝ませに連れてきたんじゃねえか」
「でも、ちょっと不思議じゃござんせぬか」
「何が不思議だ」
「遺恨を仕掛けられたものこそ江戸錦のほうなんだから、その江戸錦が秀の浦をあやめるたあ、ちっと筋が通らないように思いますがね」
「だって、こういうれっきとした証拠がありゃ、しかたがねえじゃねえか」
「ほほう、りっぱな印籠《いんろう》のようだが、どこかに江戸錦の持ち物だっていう目じるしでもござんすかな」
「そのでかい字が読めねえのか、印籠の表に、ひいきより江戸錦へ贈るっていう金泥《きんでい》流しの文字がちゃんと書いたるじゃねえか」
「なるほどね。この字が見えねえようじゃ、おれもあき盲にちげえねえや。そうするとなんですな、昔からよくある古い型だが、この印籠が秀の浦の死骸《しがい》のそばにでも落っこちていたというんですな」
「いうまでもねえや。それも、ただのところに落っこちていたんじゃねえんだ。この江戸錦の野郎をいくら締め上げても、知らぬ存ぜぬと言い張って遺恨相撲の子細をぬかしゃがらねえから、それなら秀の浦と
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