ばかりでしたから、したがってその幕下に位する者どもも、番付面でこそは虫めがね組の取り的連中でありましたが、同じ取り的は取り的でも、今の国技館で朝暗いうちにちょこちょこと取ってしまう連中に比較すると、どうして、つり鐘とちょうちんほどな相違の者ばかりでありました。
 なかでもいちばん人気を呼んだものは、当日の結び相撲だった秀《ひで》の浦《うら》三右衛門《さんえもん》と、江戸錦《えどにしき》四郎太夫《しろうだゆう》の一番でありました。それというのは、秀の浦が三段目突き出しの小相撲にしては割に手取りのじょうずでしたが、どうしたことか珍しい小男で、そのうえいたっての醜男《ぶおとこ》であったに反し、相手方の江戸錦四郎太夫はまた、当時相撲取り中第一の美男子だったという評判のうえに、力量かっぷく共に将来の大関とうわさされた新進気鋭の若相撲でしたから、その醜男と美男子の取り組みという珍奇な手合わせが、珍しもの好きな有閑階級の大名旗本たちに刺激となったとみえまして、始まらぬまえからもうたいへんな人気でありました。いや、それよりも大奥のお局《つぼね》、腰元、お女中たちの間における美男相撲江戸錦の人気はむしろ
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