すさまじいくらいで――
「な、九重さま。あなた、わたしのひいき相撲《ずもう》に、断わりなしでご声援なさいましたら、そのままではほっておきませぬぞ!」
「汐路《しおじ》さまこそ口はばったいことをおっしゃりますな! 江戸錦はわたしのひいき相撲にござりますゆえ、めったなことを申しますると、晩にお灸《きゅう》をすえてしんぜましょうぞ」
といったようなぐあいで、いずれもまだ江戸錦その者にはお目にかかったことがないくせに、もう寄るとさわるとたいへんな評判でありました。
しかし、そこへいくと、さすがに将軍さまはお大腹で、江戸八百万石三百諸侯旗本八万騎のご統領だけがものはございます。江戸錦が染め物の名やら、秀の浦が干菓子の名やら、いっこうお気にも止めないで、余は暇つぶしにさえなればよいぞ、といったような、いたってのご沈着ぶりを示しながら、定めのとおり九ツのお城太鼓が打ち出されますと、右に御台《みだい》、左にご簾中《れんちゅう》を従えさせまして、吹上|御苑《ぎょえん》に臨時しつらえましたお土俵の正面お席にお着座なさいました。ひきつづいて現われましたものは、おなじみ松平|伊豆守《いずのかみ》を筆頭に、
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