とぐろを巻いている三人の旗本どもは、ずいぶんと人を食ったやつらじゃござんせんか。将軍さまがご出座なさっているというのに、恐れげもなくおしりを向けて、さかんにちびりちびりと杯をなめていますぜ」
 なかには相撲より酒の好きなのもいることだろうし、反対にまた酒よりも玉ころがしの好きな旗本だっていることでしょうから、なにもいちいちそでを引いて呼びたてるにはあたらないことですが、黙っていたら頭痛でもするのか、ひっきりなしにうるさく話しかけました。
 しかし、右門は何を話しかけられても、お手のもののむっつり屋を決め込んで、よほどたいくつしたものか、しきりにあごのまばらひげをまさぐりつづけました。また、これは右門のごとき捕物名人にしてみるとそうあるのが当然なことで、何か右門畑のネタにでもなりそうな事件でもが起きかかっているなら格別ですが、うち見たところ旗本どもに親のかたきがいるというわけでもなし、べつにまた腰元たちの群れの中に秘密な親類筋があるというわけでもありませんでしたから、例の苦み走った秀麗きわまりない顔に、おりおりなまあくびすらものせながら、いたってたいくつげな様子でありました。
 でも、さすが上覧相撲のありがたさには、だれも見苦しい物言いなぞをつける者はなくて、定めの番数は滞りなくとんとんと運び、いよいよ待たれた江戸錦と秀の浦の結び相撲にあいなりました。お約束どおりまず木の音がはいると、これにて本日は打ち止めの口上があってから、声自慢らしい呼び出しの美声につられて、ゆうぜんと東のたまりから、土俵に姿を現わしたものは、これぞお局群に呼び声高い江戸錦四郎太夫でありました。見ると、いかさま呼び声の高いだけがものはあって、筋骨隆々とした六尺豊かな肉体は見るからにほれぼれとするような健康美をたくわえ、けわしからず、めめしからぬ整ったその顔は、なにさま相撲取り中第一の美男を思わするものがありました。さればこそ、お局群の熱狂ぶりは、正気のほどが疑われるくらいで、江戸錦ィ、江戸錦という声援とともに、いずれもぽっとほおを染めながら、棧敷《さじき》の前へのめり出してしまいました。
 それをあざけり顔で、冷ややかな笑《え》みを見せながら、つづいておどり出るように姿を見せたものは、ききしにまさる醜男の、西方結び相撲秀の浦です。だが、この秀の浦が、なるほど珍しいくらいな小男の醜男でしたが、剽悍《
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