に白状すればそのように、強情を張らばまたそのように、相手方しだいによって変通自在の吟味をするのが右門の本領じゃ。いったんてまえの目に止まったら、おしでも口をあけさせないではおかぬによって、そなたも心してすなおに白状なさるがよいぞ。お名はなんと申さるるか」
実際またむっつり右門の名まえを聞いているほどの者でしたら、事実右門がみずから折り紙をつけたとおり、変通自在|慧眼《けいがん》無類、この世にかれの明知と眼力の届かない者はないはずでしたから、その、出方しだいによってはずいぶん慈悲もいとわないといわぬばかりのことばを聞けば、たいていの者が恐れ入るべきはずでしたが、このくちびる赤き毒の花は、あくまでも、われらの捕物名人むっつり右門の烱眼《けいがん》をおおいくらまそうとしたものか、反対に食ってかかりました。
「いっさい白状せぬというたらなんとなさりまするか」
「ここで白状させてお目にかけまするわ」
「ま、自慢たらしい。こことおっしゃりまして、お偉そうにおつむをたたきなさいましたところをみますると、知恵で白状させてみせるとおっしゃいますのでござりまするな」
「さようじゃ。頭をたたいてここといえば、知恵よりほかにないはずでござる。それも、右門の知恵袋ばかりは、ちっとひとさまのとは品物が違いまするぞ」
「あなたさまの知恵袋とやらが別物でござりまするなら、わたしの強情も別物でござります。いま道々聞けば、秀の浦とやらを殺害の嫌疑《けんぎ》でお呼び立てじゃそうにござりまするが、わたしも二の丸様付きの腰元のなかでは人にそれと名まえを知られた秋楓《あきかえで》、いかにも知恵比べいたそうではござりませぬか」
「ほほう、なかなか強情なことを申さるるな。では、どうあっても、秀の浦をあやめた下手人ではないと申さるるか」
「もとよりにござります」
「でも、あの御前|相撲《ずもう》がうち終わってからまもなく外出をしたことは確かでござろうがな!」
「確かでござりまするが、それがいかがいたしました」
「いかがでもない。これなる伝六へあの時刻ごろ外出をしたものがあったら、三人五人と数はいわずに皆連れてまいれと申したところ、そなたひとりだけを召し連れて帰ったによって、そなたに下手人の疑いかかるは理の当然でござらぬか。それに、第二の証拠はこのふところ紙じゃ。見れば、そなたの内ぶところから顔をのぞかせている紙も
前へ
次へ
全28ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング