くっちゃ見破ることのできねえネタがあるんだが、さっき秀の浦の傷口を調べてみたら、あれあおまえ、だんびらやわきざしの切り傷じゃなくて、たしかに懐剣の突き傷だったぜ」
「そうですか、わかりやした、わかりやした。じゃ、ほんとうの下手人は、大奥の女中の中にいるからしょっぴいてこいというんですね」
「そのとおり。だが、おまえ、ただどなり込んでいったって下手人は容易にゃ見つからねえはずだが、どうして本人をしょっぴいてくるつもりかい」
「ちぇッ。こう見えたって、だんなの一の子分じゃござんせんか。はばかりながら、見当はもうついていますよ。だんなはお忘れなすったかもしらねえが、あの結び相撲のときに、お腰元の中からしきりと秀の浦へ声援したやつがあったじゃござんせんか。あいつを捜し出してしょっぴいてきたら、よし下手人でなかったにしたって、何か目鼻がつくでがしょう」
「偉いッ! そのとおりだが、まだ一つ忘れてならんことがあるぞ。きっと、あの時刻に外出をしたやつがあるはずだからな。いたら三人でも五人でもかまわねえから、みんなしょっぴいてきなよ」
「がってんの助だ。自慢じゃねえが、こういうことああっしの畑なんだから、あごでもなでなで待っていなせえよ」
 威勢よく伝六が駆けだしていったものでしたから、ここにおいてむっつり右門はほんとうにあごをなでなで、その帰りを待つこととなりました。

     4

 かくして、時を消すことおよそ小半刻《こはんとき》――。
「だんなだんな、大てがらですぜ。ホシの女《あま》しょっぴいてきましたから、さ、とっくり首実検をなせえましよ」
 叫びながら伝六が表玄関に威勢よく駕籠《かご》をのりつけて、鼻高々とひとりの御殿女中を引ったててまいりましたものでしたから、右門はおもむろに短檠《たんけい》のあかしをかきたてると、まずそれなる女の首実検に取りかかりました。
 ところが、それなる腰元がまた、こはそもなんと形容したらよいのか、まるでいもりのようなあくどさを備えた女でありました。わけても、そのくちびるにこってり塗られた口紅の赤さというものは、さながらいもりの赤い腹のごとき毒々しさを示していましたものでしたから、さすがの右門もちょっと毒気に当てられぎみで、ややしばしまゆをひそめていたようでしたが、やがて威厳を持った重々しいことばが、ずばりとその口から放たれました。
「すなお
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