るや、右門の口から鋭いののしりが発せられました。
「バカ者ッ。茶番狂言ではあるまいし、一生それで押し通すつもりじゃったか! ――さ、伝六ッ。駕籠《かご》をとばして、金助と、おきのどくな八郎兵衛どのとやらを大急ぎにつれてまいれッ」
伝六がまるくなって駆けだしましたものでしたから、右門はそのまに七郎兵衛の口からいっさいの秘密を自白させました。果然、事実は鳶頭金助の陳述したとおり、生島屋の奇妙な家憲に事を発し、七郎兵衛の設けた子どもも、兄の八郎兵衛の子どもと同様女でしたが、根が小欲に深い拝金宗の七郎兵衛はここに悪才を働かし、かく娘を男に仕立てて、名も陽吉と男名まえをつけながら、巧みに生島屋の六万両という大身代を私していたのでありました。
けれども、性の秘密はかく別ぶろをしつらえるほどの苦心をやって、うまうまと男に見せかけることができたにしても、偽りきれぬものは芽ぐみゆく人の春のこころです。女男の陽吉は、肉体の秘密をかくしながらも、自然の理法に従ってその円満な発育をとげましたので、妻ならぬ夫を選ぶことにたちいたりましたが、事は初めから不自然をあえて行なっていたんですから、選ぶべき配偶者には
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