たと行き詰まって、ついにおろかにも書画気違い長兵衛のせがれを女に仕立てて、かく十日まえに世人のまなこを瞞着《まんちゃく》しながら、男と女を入れ替えて、夫婦の契りを結ばせたのでありました。それというのも、長兵衛親子が、やはり欲得金づくからで、一生不自由しなければならないことを知りながら、かく窮屈な女に化けて、生島屋の六万両を目あてにこのような不自然きわまる和合を取り結んだのでしたが、そこにはしなくも大きな破綻《はたん》の原因となったものは、ほかならぬろうそく問屋長兵衛の狂気に近い書画収集癖でありました。鳶頭金助のいったとおり、生島屋七郎兵衛方に古画雪舟の名品が秘蔵されているのを知ったので、例のゆすり手を発揮しながら、せがれたちの秘密をもっけの急所におどしたてて、うまうま雪舟を巻きあげようとしたその一歩手前に、はからずも七十の老侠児《ろうきょうじ》金助のかぎ知るところとなり、事はさらにわれらの捕物侠者むっつり右門の手に移り渡って、かく今の今このひと間において、はしなくも人々の心をはらはらとさせたごとき、くしくも悩ましき男女鑑別の色模様となったのでありました。
 さればこそ、見破られた本人た
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