たのでござります」
「どうしてこんなになったかは、そちの胸に思い当たることがあるはずじゃ。ちと一見いたしたきことがあるから、職分をもって申しつくる。せがれの陽吉夫婦をすぐさまこれへ呼びよせろッ」
「えッ……!」
案の定、七郎兵衛はぎくりとなりましたが、右門のことばは間をおかないで、峻厳《しゅんげん》そのもののごとくに飛んでいきました。
「八丁堀同心近藤右門が、役儀の名によって申しつくるのじゃ、そうそうに呼びよせろッ」
七郎兵衛がしぶしぶと手を鳴らしながら陽吉夫婦を呼び招きましたので、右門は烱々《けいけい》とまなこを光らしながら、両名のはいりくるのを待ちうけました。
と――いまにしてはじめてみる、若主人陽吉夫婦は、いかにもいぶかしき一対でありました。夫たるべき陽吉が内輪に歩行を運び、妻たるべき新嫁《にいよめ》は大またに外輪だったのです。しかし、事はいやしくも犯してならぬ性の秘密にかかわっていましたので、念には念を入れるためから、一瞬、――右門は腰をひねって手だれの蝋色鞘《ろいろざや》をさッと抜いて放つや、そこにはいりきたろうとした陽吉の足もとめがけて、まずきらりとそれなる抜き身をさ
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