夜ふけにないしょがましい洗いすすぎは、いかなる微細なことをも見のがし聞きのがしたことのない捕物名人にふと不審をわかしましたので、突然襲い入るように井戸ばたへ回っていきました。
見ると、洗いすすぎをやっていたものは生島屋の下女でしたから、右門はのぞき込むようにしてきびしく尋ねました。
「品物はなんじゃ」
「えッ、た、たびでございますよ」
「なに、たび……! だれのたびじゃ」
「若だんなさまがたのたびでございます」
「どれ、みせろ」
取りあげてみると奇怪です。男のはくべき黒のほうがわずか八文七分で、女のはくべき白のほうが、なんとばかでかい足のことには十文半もありましたものでしたから、仁王《におう》様のおつれあいででも用いるたびなら格別、大和《やまと》ながらの優にやさしい女性に十文半の大足は、不審以上に奇怪と思いましたので、右門は時を移さず奥へ通ると、そこにねこぜを丸めながら、しきりと金の勘定に夢中だった七郎兵衛に向かって、こわきの雪舟を投げつけるようにしながら、ずばりといいました。
「そら、のぞみの品じゃ。よく改めろ」
「あっ、たしかに見覚えの雪舟でござりまするが、この変わり方はどうし
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