ちに想起される問題は、拷問火責めの道具ばかりとなりました。
 けれども、余人は知らずわがむっつり右門の得意としたところのものは、拷問火責めの荒道具を用いざるところにあったはずです。そのかわりに、たぐいまれな、安物でない明知という武器が残っていたはずでありました。さればこそ、そのときはからずもかれの胸中に思い出されたものは、生島屋の七郎兵衛が、特に右門ならばというように、念を押したあの一条のいぶかしい記憶でありました。それとともに思い合わされたものは、昼間生島屋を引き揚げる道の途中で、伝六に述懐したごとく、りちぎ者と名をとった公人の鳶頭が盗みを働く以上は、なにか深い根があるだろうといった、その推断でありました。それこれを思い合わしてみるに、案の定ぞうさのなさそうに見えた事件は、ここに及んでがぜん第二のなぞと秘密に包まれた雲霧の中に吸い込まれていきましたので、それみろ、いったとおりだったろう、と言いたげに右門はややしばしなにごとかをうち案じていましたが、それならそれでまた別な吟味方法でとばかり、ふいっと伝六に意表をついた命令を発しました。
「どこか近くの自身番に、座敷手錠があるだろうから、
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