家の内へひきずっていくと、いきなり小柄《こづか》をぬいて、おらがだんなの知恵はどんなものじゃい、というように大得意で伝六が持ち運んできたそれなるふすまを、ばりばりと注意深く引きさきました。といっしょで、果然上張りの一枚下からにょっきりと正体を現わしたものは、画面だけを切り抜いた名画雪舟の一幅でした。
「それみろッ。これがバカの小知恵というやつじゃ。なまじりこうぶって、こんなものの下張りに張り込んでおくから、余人は知らず右門の目にかかっては、隠しきれなかったのじゃ。さ! 神妙に申し立てろッ」
だが――、かく歴然と現品は剔発《てきはつ》されているのに、この期に及んで鳶頭の金助は、その不敵無類なつらだましいが物語っているごとく、がんとして口をとじたままでした。それも犯行を自白しなかったばかりでなく、何がゆえにかような品を盗み出すにいたったか、石のごとくに無言でありました。
「たとえ口がさけても、このことばかりは断じて申されませぬ!」
ただひとこといったきり、江戸っ子魂の意地の強さを眉宇《びう》にみなぎらしながら、厳として緘黙《かんもく》したきりでしたから、当然の帰結としてなんびとにもただ
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