きはらっていなさるところをみると、急にここまでやって来てほしが狂ったんですかい」
 すると、右門がうるさいといわんばかりに、ずばりと答えました。
「人を見て法を説けというやつだよ。かりそめにも、に組の鳶頭っていや、侍にしたら城持ち大名ほどの格式じゃねえか。高飛びすりゃしたで顔がきいているからすぐにわかるし、また江戸っ子のちゃきちゃきが、そんなぶざまなまねもしめえじゃねえか。大船に乗った気で、晩のおかずの心配でもしなよ」
 女もいらじ、金もいらじ、ただのぞむものはおいしいものばかりといいたげに、ごくおちついていたものでしたから、伝六もそれっきりむだな問いを発しませんでしたが、しかし、そう見えながらむっつりとおし黙って、例のおなじみのあごひげをまさぐりまさぐり、不断になにごとかを考案くふうしているのが、いつもながら捕物名人の癖です。果然、なにごとかくふうがついたとみえて、その夜のかれこれもう二更すぎたころでした。
「さ、伝六! お出ましだッ」
 むくりとこたつからはい出ると、おおかた人々が寝に就こうというそんな夜ふけに、ふいっと外出のしたくを始めましたものでしたから、ぎょうてんしたのはいう
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