しもあの一条がいまだに気持ちがわるいんですがね。右門のだんなならお頼みするが、ほかの八丁堀衆なら頼むまいっていわんばかりのことを、変に気を持たせてぬかしゃがったからね」
「だから、こいつちっと大物かと思っているのさ。それに、時が時だからな……おっと、いけねえ、いけねえ。話に夢中になっているうちに、とんでもねえほうへ来ていらあ。ここをいっちゃ深川へ出てしまうじゃねえか。に組っていや、たしか神田だったろ」
「へえい、さようでござんす。連雀町《れんじゃくちょう》あたりに火の見があったはずでござんすよ」
「じゃ、めんどうくせえや。ひと飛びにまた例の駕籠《かご》[#「駕籠」は底本では「駕駕」と誤記]にしようよ」
「そらッ、おいでなすった。もう出るか、もう出るかと待っていましたっけが、だんなの口から駕籠っていうお声がかかりゃ、槍《やり》が降ろうと、火の玉が舞おうと、もうおれが天下だ。――おいそこの裸虫! 大急ぎ二丁ご用だぜ」
この師走空《しわすぞら》にしり切れじゅばん一枚きりで、そこの橋たもとにふるえていた裸人足を見かけると、景気よく伝六が呼び招きましたので、右門はむっつりとくちびるを引き締めな
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