おっしゃいますと、なんですかい。盗み手のめぼしはついたが、肝心の雪舟はちょっくらちょいとめっからないとでもおっしゃるんですかい」
「いいや、そんなものの行くえやありかは、このおれが出馬するとなりゃまたたくまだがね。とかくこういうふうにぞうさがなさそうに見える事件《あな》ってものが、思いのほかに根の深いもんだよ。ついこないだの達磨《だるま》さんの捕物《とりもの》でもそうなんだが、うわべに現われているたねの小さいものほど、底が深いものさ」
「だって、雪舟が人の見ている前で、ひゅうどろどろと消えてなくなるなんて、ちっとも小さかねえじゃござんせんか」
「そりゃ、きさまが雪舟という絵の値うちに目がくらんでいるからだよ。そいつをとりのけてみりゃ、ただの盗難さ。けれども、その盗んだやつが七十近い老人のりちぎ者だっていうんだからな。根が深いかもしれねえっていうなあ、そのりちぎ者のとったってことそのことさ」
「大きにね。だんなの目のつけどころは、いつも人と違うからね」
「それに、あの生島屋のおやじが、二度も三度もおれに右門だかどうだか念を押したのが、ちっと気に入らねえじゃねえか」
「いかにもさよう。あっ
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