か回り気だけはおかしいくらい発達していたものでしたから、あたりには黒山のお客がいるというのに、おかまいなく右門を粗略に扱いながら、あけすけとやりだしました。
「ちぇッ、あきれるな。いくらべっぴんだからって、男のべっぴんじゃ、おかしくもおもしろくもねえじゃござんせんか。どんな帯をお買い上げだか知らねえが、買うなら早いことおしなせえよ」
 その声がつつぬけに聞こえたとみえて、若主人陽吉がふとこちらを向きましたので、右門の視線と陽吉の視線とが、はしなくもそこでぱたりとぶつかりました。と同時に、どうしたことか、陽吉の両ほおがぱっと首筋のあたりまでまっかになりました。その赤らみ方というものが、また、まるで男とは見えないほどにいかにもういういしく娘々していたものでしたから、右門もちょっとそれにはめんくらったようでしたが、ちょうどそのとき手すきとなった店員が腰低くやって来て、注文の品を尋ねましたので、気がついてぶっきらぼうに答えました。
「女の子の丸帯じゃ――」
「えッ? じゃ、冗談でなくてほんとうですかい」
 出がけにああはいっても、右門にかぎって、あの子やこの子が自分の知らないまにできようとは思いませんでしたから、当然のごとくに伝六はお株を始めましたが、右門は取り合おうともしないで店員に命じました。
「なるべく、はで向きで、それもごく上等を見せてもらおうかな」
「へえ、かしこまりました。こちらは繻珍《しゅちん》、こちらの品はつづれ織りでございます」
 声と同時に十八、九ごろから二十がらみのはで向きを、ずらずらとそこへ並べましたので、さあ一大事とばかりに伝六がいっそう目を丸くしていると、だが、買うものは余人ならぬわれわれのむっつり右門です。たとえ、はで向きといったにしても、店員の持ち出したようなそんな年ごろの、聞きずてならぬ隠し人や届け先がいつのまにかできていたとしたら、いち伝六の問題ばかりではなく、やがて江戸に女|一揆《いっき》の起きるやも計られない大問題でしたから、右門はあわてて手を振ると、にが笑いしいしいいいました。
「いや、違うよ違うよ。もっとずっと若い、十二、三の子どもものじゃよ」
「ちぇッ」
 みごとにまた右門得意の肩すかしに出会って、伝六はちぇッと舌を鳴らしながらそっぽを向きましたが、反対に右門はおおまじめでありました。店員が新しくそこに並べ直したがらものの中から
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