た》をうがって、ゆうぜんとふところ手をしながら、いっそうひゅうひゅうとこがらしの吹きつのりだした往来へ歩きだしましたので、伝六も負けずにあとを追いました。
 年の瀬近い江戸の大路の屋並みは、すでにまったく大戸をおろして、まこと名物の江戸の花が、いまにもそこらあたりからじゃんじゃんぼうとやりだしそうな夜ふけでした。
 行きついてみると、案の定金助は出先からもどりかえって、そこの長火ばちの向こうに古稀《こき》の老体とは見えぬがんじょうな体躯《たいく》をどっしりと横すわりにさせていたものでしたから、右門はごめんとばかり上がっていきました。
 しかし、金助のそのつらだましいをしげしげと見て、右門はちょいと、二の足を踏んだかたちでありました。生まれおちるから火事の中に育って、この世にこわいものは一つもないといいたげな、不敵無類の面貌《めんぼう》をしていましたものでしたから、人を見て術を施すにさとい右門は、はて、いかにして口をあかしたものかというように、ややしばしためらっていたようでしたが、そのときはからずもかれの目にとまったものは、そこのへやの境に使われている四本のからかみふすまです。ふすまは家につきものの造作ですから、いっこう不思議でも不審でもなかったが、いぶかしかったことは、その四本だけが他のへやの古すぎるほど古いのに比べて、特別の新しさを備えていることでした。それも尋常一様の新しさではなく、のりのしめりぐあい、紙のかわきぐあいなぞから推しはかってみると、つい一、二刻まえあたりに張り替えたらしいような点が見うけられましたものでしたから、早くも右門の特別仕立ての明知が、ピカピカとさえ渡ったもののごとくでありました。いや、同時にもうその盗難品の隠匿場所も、どうしてそれを完全に看破したらいいか、その方法も、すでにいっさいのくふうがついたもののごとく、突然にやりと笑っていたようでしたが、はじめからこの家を目ざして来たというのに、ぽつりと妙なことをいいました。
「失礼失礼。ついお隣とまちがえて、とんだ無作法をつかまつった。あしからずごめん――」
 いうと、そのまま表へ出ていってしまいました……そろそろ右門流が始まったなと、伝六が次の行動を待っていると、果然右門が奇怪至極な命令を発しました。
「一二三の合い図をするから、きさまもいっしょに、この家の前で、お隣が火事だと大声で叫べ!」

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