事実なんだから、もし五人の者がもう少しむっつり右門の名声に親しかったらそんな向こう見ずもしなかったのでありましょうが、いうように仲間を討たれたさか恨みに思い上がってでもいたのか、それともまた、せっかくくふうした商売を妨げられた恨みに破れかぶれとなっていたものか、あるいはみずから名のったごとき南部藩食いつめの、放蕩無頼上がりという愚にもつかない肩書きにうわずっていたものか、中なるひとりを中心に、左右ふたりずつ両翼八双の刃形をつくりながら、ひたひたとつまさき立ちで押し迫ってきたものでしたから、右門はついに一声鋭く叫びました。
「バカ者ッ、そんなに死にたいかッ」
 同時におどり入りざま、ひと腰ひねった奥義の一手は、これぞ右門がみずから折り紙をつけた錣正流《しころせいりゅう》の居合い切りです。二寸からだが動けば三人の命は飛ぶぞと威嚇したとおり、すでに左の両三名はたっぷり右門の細身に生き血を吸われて、だッと声もなくそこにのけぞったところでありました。いっしょに泳いで切りさげたふたりの太刀《たち》を、間髪の間にうしろへ流しておくと、右門は片手中段に構え直しながら、その蒼白《そうはく》の美貌《びぼう
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