》に莞爾《かんじ》とした笑《え》みをみせて、静かに叫びました。
「どうじゃ。まだ業物《わざもの》が血を吸い足らぬというているぞッ。どこからかかってくるかッ」
そして、じっと呼吸を静めながら、二本の刃に向かってじりじりと押し迫っていきました。なんじょうそれが避けえられましょうぞ。誘いのすきとも知らずに、右門のわざと見せた小手のみだれへ、あせりながら相手がつけ入ってきたので、太刀風三寸の下に左へぱっと体を開くと、一閃《いっせん》するや同時に、右門のここちよげな叫び声がきこえました。
「ざまをみろ! いっしょに地獄へいって舌でも抜かれるがいいや!」
とたんに、どっとまた人がきからは賞賛の声があがりました。
しかし、右門は切ってしまうと同時に、突然悲しげな表情をうかべました。むしろ愁然として、ややしばしそこに切り倒された五人の者のあけに染まった骸《むくろ》を見守っていましたが、ふとうしろの熊仲、黙山両人をかえりみると、つぶやくようにいいました。
「自業自得は自得じゃが、でも、思わぬ罪を重ねたな。さいわい、そなたたちは仏道に仕えている者たちじゃ。わしに代わって、よくこの者どもの菩提《ぼだい
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