ども衆にお手ほどきしているとかいうことでござりました」
 がぜん事件の秘密はここに一道の光明をもたらして、いよいよ熊仲《くまなか》和尚《おしょう》の身辺はいっそう濃厚な疑惑の雲に包まれだしたものでしたから、きくや同時に、右門の口からは鋭い声が発せられました。
「ちくしょうッ、ふざけたことぬかしやがって、姪御さんが聞いてあきれらあ。肉親のおじさんにみだらがましい……をねだる姪もねえじゃねえか。さ、伝六ッ、十手の用意をしておけよ!」
 いうと、表に待たしておいた駕籠に飛び乗りながら、いっさんに浅草めがけて道を急ぎました。
 行ってみると、なるほど田原町を左へ折れた路地口に大きなひのきが一本あるので、目あての三味線の師匠というのは、ちょうどそのひのきの奥隣に見つかったものでしたから、右門は万一逃走の場合を考えて、裏口に伝六を張り込ませておくと、黙山を伴いながら案内も請わずに、ずいと座敷へ上がりこみました。
 と――、それなる熊仲和尚は、なんという生臭でありましたろう! 青てかの道心頭をも顧みず、女のなまめいたどてらをひっかけて、蛤鍋《はまなべ》かなんかをつつきながら、しきりと女に酌をとらせて
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