が現われました。
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「――あんなことにかんしゃくをおこして、ほんとうにいやな人だね。あたいはこんな水商売こそしているが、金や男ぶりに目がくらんでおまえさんなんかに……じゃないよ。だから、きげんを直して、もう一度あすの晩にでもおいでよ。ただし、来る節は忘れずに……またおみやげをね。でないと、あたいはまた血の道をおこしてやるよ。では、万事その節のうれしい口説まで、――ひのき稲荷《いなり》のご存じより」
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 見ると、中には以上のごとくに、許しがたき女犯にまで立ち及んだ痴文がしたためられてあったものでしたから、なんじょう右門ののがすべき、ただちに烱々《けいけい》とまなこを光らすと、まをおかないで質問が黙山のところに飛んでいきました。
「そなたひのき稲荷というのはどこか知っておりませぬか」
「よく存じております。こないだお兄いさまのおつかいにいんだところも、やはりそこでござりました」
「なに※[#感嘆符疑問符、1−8−78] では、浅草でありますな」
「はい。お師匠さまのお姪御《めいご》さんとやらが、三味線《しゃみせん》のじょうずなかたで、近所のお子
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