を巨細《こさい》に調べると、路用の金すらも持たずに、ほとんど着のみ着のままで飛び出したことがまず第一に判明いたしましたから、早くも右門はその逐電先が遠方でないことを知って、なお入念に調べてみると、そのときはしなくも目についたのは長火ばちの向こうにころがっていたなまめかしい朱|羅宇《らう》です。本来、朱羅宇そのものが男ばかりの僧院には許しがたき不似合いな品であるところへ、よくよく見るとそれなるキセルの雁首《がんくび》のところには、さらになまめかしい三味線《しゃみせん》の古糸がくるくると巻きつけてあったものでしたから、すでに右門は、その逐電先までも見通しがついたごとくに、薄気味わるくにたりとほほえみをみせていましたが、と――つづいてよりいっそうの注意をひいたものは、さっきうたたねをしていたときに用いてでもいたらしいがんじょうなかぎのかかっている不審な木まくらでありました。およそ何がいぶかしいといっても、様子ありげに引き出しへじょうぶなかぎをかけている箱まくらなぞというものは、そうざらにあろうとは思えませんでしたので、容赦なく小柄《こづか》の先でこじあけてみると、果然中からは怪しき一本の手紙
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