少年僧は少しく奇怪でありました。いっこうそれらの精進物にはしをつけようとしないで、しきりと興津鯛のほうにむじゃきな色目を使いだしたものでしたから、なんじょう右門のまなこの光らないでいらるべき、普通の者ならたいてい見のがすほどのささいなことでしたが、早くも大きな不審がわきましたので、さりげなく尋ねました。
「そなた生臭をいただくとみえますな」
「はい、ときおり……」
「なに、ときおり? でも……? 仏に仕える者が、生臭なぞいただいたのでは仏罰が当たりましょう?」
「だけど、お師匠さまがときおりないしょで召し上がりますゆえ、そのお下がりをいただくのでござります」
と、――はしなくもいったその一語を聞くやほとんど同時でありました。それまでは、どこからこの難事件に手をつけていくのか危ぶまれていましたが、がぜん捕物名人はらんらんとそのまなこを鋭く輝かさすと、伝六をしかるようにいいました。
「それみろ! きさまはおれが腹の減っていることを思い出したといったら、人間じゃねえような悪態をついたが、碁盤のききめはもうこのとおりてきめんだ。思い出したからこそ、こんなもっけもねえ手がかりがついたじゃねえか
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