知りませんよ。いくらかってにおなかのほうから減ってくるにしたって、他人のものならだが、お自分の身の内なんだからね。なにもそんなことわざわざ碁盤を持ち出してみなくっても、わかりそうなもんじゃござんせんか」
伝六の雲行きがとりつくしまのないほどにも、ひどく険悪でしたものでしたから、苦笑しいしいお台所のほうへはいっていったようでしたが、まもなく興津鯛《おきつだい》のひと塩干しを見つけてくると、天下の名同心むっつり右門ともあろう者が、みずからそれを火に焼いて、ようよう一食にありついたというようにちゃぶ台へ向かいました。
しかし、そのときふと気がついたのは、そこにちんまりとお行儀よくすわりながら、手あぶりの上へ両手をかざしていた少年僧のことです。ちらりと見ると、少年のむじゃきさに、しきりと空腹らしいけぶりを見せていたものでしたから、思いついて右門は声をかけました。
「そなたもまだでありましたか」
「はい。お相伴させていただければしあわせに存じます」
活発にいうと、おくする色もなくちゃぶ台についたものでしたから、右門は当然のごとくにあり合わせの精進物だけをそちらへ分けてやりました。しかるに、
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