とくにまた将軍家がご保養かたがたお鷹狩《たかが》りを催すこととなりまして、もうその日も目前に迫ってまいりましたから、今でいえば当日の沿道ご警戒に対する打ち合わせ会とでも申すべきものでしょう、ご奉行《ぶぎょう》職からお招き状がありましたので、右門も同役たち一同とともにそのお私宅のほうへ参向いたし、何かと協議を遂げて、お組屋敷へ引きさがったのは、かれこれもう晩景に近い刻限でした。
ところが、帰ってみると、火もつけないで暗い奥のへやに、るす中例のおしゃべり屋伝六がかってに上がり込んで、ちょこなんとすわっているのです。伝六とても生き物である以上は、ときに横へはうこともあるであろうし、あるいはまたさかだちもするときがあるでしょうから、たまにお行儀よくすわっていたとて、なにもことさらに不思議がる必要はありませんが、どうしたことか、そのすわり方というものがまたおそろしく神妙で、あの口やかましいがさつ者が、まるで人が変わったようにひどくきまじめな顔をしながら、しきりとなにか考え込んでいたものでしたから、珍しく主客が変わって、きょうばかりは右門が聞き役となりました。
「どうしたい。いやにおちついている
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