「お名まえはなんといいますな」
「モクザンと申します」
「モクザン……? モクとはどのように書きますな?」
「黙った山と書きます」
「ああ、なるほど、その黙山でありましたか。なかなかよいお名まえでありますな。生まれたお国は?」
「天竺《てんじく》だと申しました」
「なに、天竺……? 天竺と申せば唐《から》の向こうの国じゃが、どなたにそのような知恵をつけられました」
「うちのお師匠さまが申されました。仏の道に仕える者は、みんな如来《にょらい》さまと同じ国に生まれた者じゃとおっしゃいましたので、おじさんとても万一わたくしのお弟子になるようなことがござりますれば、やはり天竺の生まれになります」
「ははあ、なるほどな、なかなか利発なことをいいますな。きけばお兄いさまがあったそうじゃが、おいくつでありました」
「十二でござりました」
「ほう。では、そなたのようにかわいかったでありましょうな」
「はい、みなさまが源空寺の豆兄弟、豆兄弟とおっしゃいまして、ときどきないしょに、くりのきんとんなぞをくださりました」
「ほほう、くりのきんとんをとな。では、お兄いさまもそなたのように源空寺へお弟子《でし》入りをしていましたのじゃな」
「はい、鉄山と申しまして、わたくしよりか太鼓を打つことがじょうずでありました」
「なるほどのう。でも、今きけばくまに殺されたとかいうてでしたが、そのくまというのは、けだもののくまでありましたか、それともくまという名の人でありましたか」
「それがくまという名の人じゃやら、けだもののくまじゃやらわかりませぬゆえ、毎朝お斎《とき》のおりにいっしょうけんめい如来《にょらい》さまにもお尋ねするのだけれど、どうしたことやら、阿弥陀《あみだ》さまはなんともおっしゃってくださりませぬ」
 いうと少年僧は、阿弥陀如来の何もいってくれぬことが、くやしくてくやしくてならぬというように、突然じわじわと両眼をいっぱいのしずくにうるませました。右門もついそのむじゃきな信仰に胸を打たれて、ほろほろと涙を催しましたが、それだけにいっそうこの少年僧の偽りを含まぬ陳述は、しだいに職業本能をそそりましたので、語をつづけながらさらにやさしく尋ねました。
「では、お兄いさまが、どこで、どのようにご最期をとげたかもわかりませんのじゃな」
 すると、少年僧は急に元気づいて、活発に陳述いたしました。
「い
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