をいう豆僧だなと思いましたからね、だって、このつり鐘がくまの形も犬のかっこうもしていねえじゃねえかってきいてやったら、あたりめえだい、つり鐘がくまやこまいぬのかっこうしていたら、おじさんの頭はとっくに三角のはずだいって、こんなことをいうんですよ」
「ほほう、なかなか達者だな。じゃ、なんだっていうんだな。そのつり鐘をけいこ台にして、剣術のけいこでもしていたっていうんだな」
「そ、そうなんですよ。だから、いよいよいわくがありそうだなと思いやしたから、どこにそのくまがいるんだってきいてやったら、どこにいるかわからねえが、うちのたいせつなあんちゃんがそのくまに殺されたから、それでかたきを取るためこうやって、毎日けいこしているんだっていうのでね、ひょっとすると、こいつあまただんなの畑だなと気がついたものだから、何はともあれいっぺんおめがねにかけなくちゃと思って、わざわざひっぱってきたんですよ」
「そうか、なかなか禅味のある話でおもしれえや。蛇《じゃ》が出るか蛇《へび》が出るか知らねえが、じゃおれがひとつ当たってやろう」
すでになにか見抜いたところでもあるかのごとく、右門はまず一服というようにしみじみと茶をたしなんでいましたが、そこへ伝六が灯《ひ》を入れて短檠《たんけい》を持ってきたので、すわり直しながら少年僧を手招きました。
すると、少年僧は恐るるけはいもなくちょこちょこと前へ進みながら、さすがは作法に育てられた仏弟子《ぶつでし》だけあって、活発にあいさつをいたしました。けれども、まだなんといっても頑是《がんぜ》ない子どもでしたから、あいさつはあいさつであっても、少々ばかりふるった口上でありました。
「遠いところをよくいらっしゃいました」
つい平生お寺で人の顔をみたらそういえと教えられてもいたものか、主客をまちがえて主人の右門によくいらっしゃいましたといったものでしたから、むろんのことに思いやりのない伝六はぷッと吹き出しましたが、しかし右門は反対に、かえってそのむじゃきなまちがいが愛くるしさを添えましたので、目を細くしながら答えました。
「はいはい、これはどうもごていねいなごあいさつで痛み入りました」
そして、自分の手あぶりを半分そちらへ回してやると、赤くかじかんでいる少年僧の豆みたいにちっちゃな両手を、上下から暖めるように持ち添えてやりながら、やさしく尋ねました。
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