さ! 権右衛門! 男らしく正体を現わさぬか! 降りてこぬと、ほんとうに突き刺すぞ!」
 すると、まことに意外でありました。右門のその慧眼《けいがん》を裏書きして、天井裏から答える声がありました。
「恐れ入りました。いかにも正体は現わしまするによって、どうぞ気味のわるい穂先だけはもうお控えくださいまし」
 つづいて、みしみしという音とともに、押し入れの中の出入り口を伝わって、果然そこに姿を見せたものは、二日の天井裏|籠城《ろうじょう》で、ほこりとすすによごれ染まっている死んだはずの恒藤権右衛門でしたから、右門は会心そうな笑《え》みをみせていましたが、しかし不平そうなのはあばたの敬四郎で、ややなじるがごとくにいいました。
「拙者の尋ねるものは、恒藤某なぞではござらぬよ。破牢罪人の源内でござるよ」
 すると、右門が莞爾《かんじ》とばかりうち笑みながらいいました。
「その源内とやら申す破牢罪人は、こやつが殺して、おのれの身代わりとなし、もうきのう土の下へうずめてしまいましたよ」
「なに※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 殺した※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 殺した※[#感嘆符疑問符、1−8
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