るくちびるに虚勢を張っているもののごとく、とがめだていたしました。
「白昼許しもなく女こどもばかりの住まいに長物持参で押しかけ、なにごとにござりまするか!」
「いや、どらねこ退治に参ってな」
 しかし、右門は相手にもせずに、にやにやとうち笑みながら、伝六からくだんの長槍をうけとると、さッと石突きをふるって毛鞘《けざや》をはねとばしたと見えたが、えい! とばかり気合いを放つと、意外や、そこの天井めがけて、ぶすりとそのどきどきととぎすまされた九尺柄の穂先を突きさしました。しかも、そのへやの天井一カ所ばかりではなく、次々と疾風の早さをもって、残らずのへやの天井を同じく長槍の穂先を突き刺してまわったと見えましたが、突然、真に突然、意外な人の姓名を大音声《だいおんじょう》で天井めがけながら呼びました。
「さ! 恒藤権右衛門、降りてこぬと、右門の槍先がこのとおり見舞っていくぞ!」
 伝六のおどろいたことはもちろんでしたが、それよりも妻女の青ざめたことはいっそうのもので、へたへたとそこにうずくまってしまったのをみると、右門はさらに勢い鋭く天井を突き刺してまわりながら、ふたたび大音声で叫びました。

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