−78] なぜ、てまえのたいせつな罪人をかってに殺しおったか、さ! 子細を申せ! 申さぬか!」
 あまりな意外のために、つい本性が出たものか、あばたの敬四郎が権右衛門に飛びかかって、その首筋を締めあげながら、いまにも悪い癖の痛め吟味を始めようとしたものでしたから、右門はあわててさえぎると、痛いところを一本刺していいました。
「いや、お待ちめされ! 拷問ばかりが吟味の手ではござらぬ。物には順序と道理があるはずじゃから、理詰めに調べたてれば、実を吐かぬというはずはござらぬ。てまえが代わって吟味つかまつろう。――さ、権右衛門、上には目のある者も、慈悲を持つ者もあるゆえ、ありていに申すがよいぞ。何がゆえに、なんじは源内を一昨夜かようにむごたらしき死に落とし、おのれの死骸《しがい》のごとくによそおって、人目をたぶらかそうといたしおった。このうえ白を黒と申しても、八丁堀にむっつり右門といわるる拙者の目が光っているかぎり、偽りは申させぬぞ!」
 敬四郎ならば一言も自白しまいとするかのように見えた恒藤権右衛門も、右門の慈悲あるらしい様子とことばに隠すことの愚を知ったものか、神妙に恐れ入って尋ねました。
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