ことができるだろうと考えついたものでしたから、殿の怒りを激発させるために、かく秘蔵中の秘蔵の村正を盗みとったのです。しかし、盗み取ってはみたが、要介も根からの悪人でなかった証拠には、村正の世に出してはならぬ刀であることはよく知っていたものでしたから、ご恩をうけた君侯の名に傷をつけまいために、また二つには自分の犯跡をくらますために、平素身近に帯ぶることが最も臟品《ぞうひん》を隠匿するに聡明《そうめい》な方法と思いついたものでしたから、かように作りを変えて佩用《はいよう》していたのでしたが、それとて右門の慧眼《けいがん》のために、はしなくも看破されて、今のごとき艶麗《えんれい》無比な機知の吟味となったのです。
もちろん、新墓の死に胴ためしも要介のしわざで、村正のあまりによく切れそうな妖相《ようそう》についそそのかされて、かく罪なき仏の肉体を汚したのでありました。
そこで、いかに右門がこれを裁断するか、それが興味ある問題でしたが、むっつり右門はあくまでもうれしきわれらの右門です。よこしまな恋のために、友を裏切った若者を、たしなめるがごとくに、じゅんじゅんと言いきかせました。
「そなたもこ
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